【また会ってくれる?と彼女はそう言った】

『また会ってくれる?』

「もちろん。当たり前でしょ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
いつも以上に混み合う箱内
いつものDJブースが仮装コンテストの表彰台になっていた。
踊り疲れてたので休憩がてらに、ぼんやりとそれを眺めていた。
 
 
 
 
ふと後ろを振り返ると仮装に統一感のない女の子がお酒を飲んでいた。
つい、反射的に「ちょっとwアリスなの?メイドなの?!いったいなんの仮装なのよwww」
と、声をかけていた。
 
 
 
 
驚いた。とても可愛らしい顔をしていた。
 
 
 
 
『なに急に!失礼だからw』
『でもお兄さんよく見たらイケメンw』
 
 
 
 
 
 
彼女との出会いはハロウィンのクラブでだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
後日待ち合わせをして、居酒屋でご飯を食べて、BARでお酒を飲んで、ホテルでセックスをした。
 
 
 
朝方、彼女をタクシーまで見送った。別れ際に
 
『また会ってくれる?』と彼女はそう言った。
「もちろん。当たり前でしょ」俺はそう答えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
正直もう会うつもりは無かった。
何故なら一度セックスをした女の子とはもう会わないのが自分の中でのルールだからだ。
そこからは何も生まれないし、生み出してもいけない。
 
 
 
けれども、彼女のあまりにも無邪気な笑顔が、アルトな声が、甘い香りが、身体の綺麗な曲線が、
そして、時折見せる少しだけ切ない表情が頭から離れず会いたいなと思ってしまう。
もっと彼女の事について色々知ってみたい。そう思った。
 
 
 
確か、2回目にセックスをした後に『付き合えないの?』
そんな、類の事を言われた。
 
「君のことはとても素敵だと思う。一緒に居て落ち着くし凄く楽しい。」
 
「自分がそんな風に思う事は凄く珍しい事なんだ。」
 
「でも常に仕事が忙しい。自分にとって仕事が一番大事なんだ。」
 
「それでも良ければ一緒に居よう?」
半分本当で半分嘘の台詞だ。我ながらズルい男だと思う。
 
 
 
それなのに、
「うん‥‥それでも一緒に居たい。」彼女は小さく頷いてくれた。
 
 
 
 
それから月に何回かデートを繰り返した。
会えない時はLINEをして、たまに電話もした。
二人の関係が、恋人、セフレ、友達なのかもハッキリさせないままに。
 
 
 
 
 
会っている時は純粋に楽しかった。
年下ながら大人びている彼女に惹かれていた。
彼女の言葉から、表情から、態度から俺を好きで居てくれている事を沢山感じ取れた。
それは素直に嬉しかった。
 
その反面、このまま彼女をもっと好きになっていくのが怖かった。
何故なら俺は彼女を幸せにする事が出来ないのだから。
 
 
 
すごく好きなのに「好きだよ」とはずっと言わなかった。
否、言えなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そして時は突然訪れた。
 
 
 
 
 
 
彼女の家で目がさめると彼女が座っている。
どうした。雰囲気が違う。
 
久しぶりに会ったのに、俺がずっと眠っていたからか?
いや、違う‥‥‥‥
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ツイッターやってる?』
 
 
背筋が凍るとはこの事かと思った。
 
 
怒り、悲しみ、呆然、軽蔑が混ざったような表情でこちらをまっすぐ見つめる彼女。
 
目の前に現れる自分のアカウント。
 
 
 
 
すぐに否定をした。
事実を認めたくなかった。
そして、彼女を深く傷つけてしまった事に申し訳けない気持ちでいっぱいになった。
 
 
 
 
二人の関係の話になった。
 
『こんな風になるんだったら、最初から割り切って会っていればよかった』
目に涙を溜めながら彼女はそう言った。
 
 
色々な言葉が思い浮かび、喉まで出てきたが、結局何も口には出来なかった。
 
 
暫くして捻り出した言葉は
「それで‥‥君はどうしたい?」また俺はズルい男だった。
 
 
『‥‥‥さよならだね』当たり前だよな。
 
 
去り際、ストックしていたコンタクトレンズを返される。
『はい、忘れ物』
もう会えない事の現実味が一気にのしかかってくる。
 
 
「今までありがとう」と、精一杯の作り笑顔をして彼女の家から立ち去る。
 
 
今までの彼女との出来事を思い出す。
この街に来ることももう無いのかとぼんやり考えながら駅に向かって歩いてると、
後ろからバタバタと大きな足音が聞こえる。
 
 
 
 
振り返ると、統一感のあるスウェット姿の女の子が居た。
 
 
 
 
『友達として‥‥‥ハァハァ‥‥』
 
肩で息をする女の子。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『また会ってくれる?』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「もちろん、当たり前でしょ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
彼女に会うことはもうなかった。